【データコラム】チーム技術統計データで昨シーズンを振り返るーV1女子編ー
みなさん初めまして。
Vリーグ公認アナリストの宮脇です。今日からコラムという形で、データから観るバレーボールの”ツウ”な面白さを
お伝えできればと思っていますので、よろしくお願いします。
いよいよ今週からV.LEAGUE DIVISION1 WOMENが開幕します。
昨シーズンは久光製薬スプリングスがV・レギュラーラウンド、ファイナル8を全勝でファイナルまで勝ち進みました。
ファイナルの相手はウエスタンカンファレンス4位ながらも、ファイナル8・ファイナル3を快進撃で勝ち上がった
東レアローズ。ファイナル初日はストレートで久光製薬が勝利しましたが、続く第2戦はフルセットで東レが勝利し、
試合はゴールデンセットにまでもつれこみました。
最終的にゴールデンセットを制した久光製薬が新生V.LEAGUEの初代女王となりました。今年は新たにヴィクトリーナ姫路が
V1に参戦し、プレミアカンファレンスとスターカンファレンスに属する計12チームで争われます。
本コラム第1回目となる今回は、チーム技術統計をもとに昨シーズンを振り返り、各チームのよかったところ、
改善すべきところを数字から探っていきたいと思います。
今回は、「アタック効果率」「バックアタック効果率」「セットあたりのブロック決定本数」「サーブ効果率」の
4つの指標で各チームの特徴を捉えていきたいと思います。全11チームの数値から「偏差値」を算出して、
11チーム全体の平均よりもどれくらい良いのか悪いのか比較していきます。偏差値はみなさんご存知の通り
全体平均を50としてそれよりも高ければ優れている、50より低ければ劣っているというものです。
今回使用しているデータはVリーグの公式記録を用いています。また、データを統一するためにV・レギュラーラウンドの
データのみを使用しています。
アタック効果率は最終順位との相関が高い?!
上の図は各チームのアタック効果率を偏差値化し、2018-19シーズンの最終順位順に時計回りで並べたものです。
赤い線が各チームの偏差値で、グレーの太線が基準となる「50」の数値です。このグレーの太線よりも外側にあれば
平均よりも優れている。内側にあれば平均よりも劣っていると解釈することができます。
アタック効果率とは、アタックの決定本数から失点(ミスと被ブロック)を差し引き、それを打数で割ることで
算出する指標です。公式帳票に掲載される指標ではありませんが、このアタック効果率の良し悪しが試合の勝敗に
大きく影響するとされています。
上位に入った久光製薬、東レ、JTマーヴェラスは他のチームと比べても
攻撃力が高かったことが表からも明らかです。特にファイナルの対戦
カードの久光製薬と東レは偏差値が60を超えています。一方でトヨタ車体
クインシーズ、デンソーエアリービーズ、NECレッドロケッツは平均的な
50近辺に位置しています。やはり優勝を目指すためにはアタック効果率を
高める必要があるようです。
面白いことに、埼玉上尾メディックスは昨シーズン7位という結果に
終わりましたが、上位チームにも引けを取らない決定力があったことが
わかります。
アタック効果率の偏差値が50を下回っているのは日立リヴァーレ、
岡山シーガルズ、KUROBEアクアフェアリーズ、PFUブルーキャッツの
4チームです。決定力の低さが最終成績にも繋がっているように思います。
PFUは昨シーズン、なかなか勝ち星を重ねられず苦労しましたが、岡山
シーガルズから移籍した合屋選手や園田選手、昨シーズンから出場している
髙相選手など小柄ながら跳躍力と機動力に長けた選手が揃っています。
また、アジア選手枠でタナッチャ選手も加入していますので昨年とは
違った戦いを期待したいですね。KUROBEも補強により大きく攻撃力が
上がりそうです。外国籍選手ではアメリカの成長株リー選手、
さらに杉原選手と間橋選手を移籍で獲得しています。
実はあのチームはバックアタックが苦手
バックアタック効果率の数値を見てみると、優勝した久光製薬は平均値の50を下回っています。
咋シーズン優勝した久光製薬ですが、実はバックアタックの数値は2位以下のチームと比較しても決して高くは
ありませんでした。ファイナル8進出したチームのバックアタックの割合は全アタックの10%程が平均ですが、
そもそも、久光製薬はバックアタックの使用率が全アタックに対して約4%と低くなっています。バックアタックにも
磨きがかかればさらに恐ろしい存在になるかもしれません。
特にバックアタック効果率が高かったのは東レ、JT、トヨタ車体、埼玉上尾です。バックアタック決定率の個人ランキングを
見るとこの4チームに所属する外国籍選手が名を連ねています。日立も比較的高い数値を示していますが、日本人首位の
バックアタック決定率(35.4%)を残した渡邊選手の存在が大きいです。
デンソーやNECはファイナル8進出チームの中ではバックアタック効果率が低い結果となっています。デンソーには
昨シーズン海外でプレーしていた田代選手が加入したことによってバックアタックを絡めた攻撃を展開し、数的優位の状況を
数多く生み出すことができれば優勝争いに食い込むかもしれません。
ファイナル進出の明暗を分けたのはブロック決定本数か?
次に1セットあたりのブロック決定本数を見比べてみましょう。
久光製薬が偏差値70以上という圧倒的な数値であったことがわかります。久光製薬は外国籍選手としてブラジルの
世界的名プレーヤーであるファビアナ選手(video by FIVB)を獲得しておりブロック力は今年も脅威となりそうです。
東レやトヨタ車体も他のチームと比べると高いブロック力を有しています。
東レはクラン選手や黒後選手が貢献しており、トヨタ車体は荒木選手が
セットあたり0.79本と全体でも3位の成績でチームを牽引しています。
ファイナル進出を逃したJTはブロック力に課題があったようです。1セット
あたりのブロック決定本数をあと少しでも増やせていたらファイナルへ進出して
いたかもしれません。今シーズンはアメリカのドルーズ選手を獲得しています。
ドルーズ選手は今年のネーションズリーグでアメリカの優勝の立役者となり、
MVPも獲得した選手ですので大いに期待が持てそうです。また西川選手や
神田選手など大型の新人選手を獲得していますので課題のブロックがどこまで
改善されるか期待したいですね。
デンソーは平均的な数値に留まりましたが、大きく戦力を整えてきています。
特に、コンビバレーを得意とするタイに移籍をしていた奥村選手がどのように
チームを変貌させるか楽しみですね。
NECも昨シーズンはブロックで苦しんだことがデータから伺えますが、
今年は曽我選手や山田選手といったU 20世界選手権で金メダル獲得の原動力と
なった選手達が頭角を現してくると思います。
サーブ効果率を高めないと上位進出は望めない
最後にサーブ効果率です。
上位チームはサーブ効果率が高いことがわかります。特にトヨタ車体はサーブ効果率が高かったようです。
トヨタ車体は荒木選手や渡邉選手などサーブ効果率の高い選手の活躍や、チームとしてサーブ失点が少なかったことも
要因のようです。ファイナル8に進んだチームの中ではNECと日立が他チームと比較して低くなっています。サーブが
改善されればさらに上位争いに食い込んでくる可能性もあり得ます。
埼玉上尾はサーブ効果率でも最終順位では上のデンソーやNECよりも高い数値だったことがわかります。前述の
アタック効果率でも上位チームに引けを取らない数値を残しておりますが、優勝争いまでのし上がっていけないのは
どこかに勝ちきれない理由があるのでしょう。これだけ前述したアタック効果率やサーブ効果率が高いにも関わらず
順位が上がりきらなかったのは、ディフェンス面に課題があったのではないでしょうか。そんな中、昨シーズン
イタリアに移籍していた冨永選手が復帰し、チームにどのような変化をもたらすか、また日本代表選手にも登録され
攻守ともに安定感のある吉野選手の活躍にも期待したいですね。
さて、今回は昨シーズンのデータから各チームの特徴を捉えていきましたが、チームではこれらのデータよりも
もっと細かいデータを分析し、課題を洗い出し、今シーズンに向けて準備を進めていると思います。昨シーズン
足りなかった部分をどのように克服し変化してきたか、チームの「進化」にも注目ですね!
次回のデータコラムは、再来週の10/24に今回同様のふりかえりをV1男子全10チームについて行います。今回解説した
チームや選手の記録・ランキングはVリーグ公式サイトでも確認できますので、シーズンが開幕したら確認してみて下さい。
来週は意外と知らないタイムアウトや交代のルールに加え、今シーズン一部変更のあるチャレンジの種類などを解説します。
こちらもぜひチェック下さい。
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<LineUp>
2019-20シーズンの大会方式をおさらい
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<Vリーグ公認アナリスト>
宮脇 裕史(Hiroshi Miyawaki)
2007-2014 JTマーヴェラス コーチ兼アナリスト
2014-2016 バレーボール・女子日本代表 サポートアナリスト
2017- バレーボール女子アンダーエイジカテゴリー日本代表・アナリスト
(公益財団法人日本バレーボール協会)
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