【データコラム】チーム技術統計データで昨シーズンを振り返るーV1男子編ー
こんにちは、Vリーグ公認アナリストの宮脇です。
今年の国際大会のメインイベント、FIVBワールドカップバレーボール2019も終わり、いよいよDIVISION1 MENも開幕が近づいてきました。
さて第2回目の今回は、昨シーズンのV1男子の公式記録を元に昨シーズンの各チームの強みや弱みを明らかにしたいと思います。昨シーズンの
チームの記録を振り返ることによって、観戦するときに今シーズンのチームの変化点に気付きやすくなるかと思います。
では、前回同様に「アタック効果率」「バックアタック効果率」「セットあたりのブロック決定本数」「サーブ効果率」の4つの指標で
各チームの特徴を捉えていきたいと思います。全10チームの数値から「偏差値」を算出して、全体平均よりもどれくらい良いのか悪いのか
比較していきます。データはVリーグの公式記録を用い、データを統一するためにレギュラーラウンドのデータのみを使用しています。
選手の復帰や引退がアタック決定率にどう影響するか
上の図は各チームのアタック効果率を偏差値化し、2018-19シーズンの最終順位順に時計回りで並べたものです。
青い線が各チームの偏差値で、グレーの太線が基準となる「50」の数値です。このグレーの太線よりも外側にあれば平均よりも優れている、
内側にあれば平均よりも劣っていると解釈することができます。
アタック効果率とは、アタックの決定本数から失点(ミスと被ブロック)を差し引き、それを打数で割ることで算出する指標です。
昨年のレギュラーラウンドのアタック効果率を見てみると、優勝したパナソニックパンサーズよりもJTサンダーズやサントリーサンバーズの方が
やや上回っていました。レギュラーラウンドではサントリーが2位通過、豊田合成トレフェルサ(2019-20シーズンより「ウルフドッグス名古屋」に
チーム名を変更)も3位通過でしたのでこの結果も頷けます。東レアローズはレギュラーラウンドを5位通過でアタック効果率も平均をやや上回った
程度ですが、最終的にファイナル3まで進出し最終順位は3位でした。ファイナル6ではレギュラーラウンドでは全敗していたパナソニックに対し
3−1で勝利するなど健闘しています。
パナソニックは怪我から復帰した清水選手や、外国籍選手のクビアク選手らが中心となって今年も安定した試合運びが期待できそうです。
サントリーは今年5月の黒鷲旗を最後に引退した米山選手の抜けた穴をどのように埋めることができるかも見どころの一つです。藤中選手は
昨シーズンに引き続きチームの中核としての活躍が期待されますが、その対角に誰を起用し、どのような働きをするかがチームの明暗を分けそうです。
昨シーズンからV1に参戦したVC長野トライデンツは非常に苦戦を強いられましたが、今年は新たにポーランド出身のオポジットである
パトリック選手をチームに迎え戦力アップを図っています。決してスター選手がいるわけではありませんが、どこまで勝ち星を伸ばせるか楽しみです。
FC東京はキャプテンの長友選手が怪我で離脱してしまったのは痛手ですが、高い跳躍力としなやかさを持つ迫田選手など若い選手たちの活躍にも
期待したいです。
バックアタックの決定力の差がものを言う
次にバックアタック効果率を見てみると、最終順位の高いチームが軒並み高い数値を残していることがわかります。
特にグランドファイナルの対戦カードとなったパナソニックとJTはバックアタックでこの数字が高くなっています。バックアタックの効果率が高いと、
相手のブロッカーはフロント(前衛)選手だけではなく、バックアタックに入ってくる選手も注意しておかなければいけないので、そこで数的優位が
生まれます。
また男子は女子と違ってバックアタックの決定力が高く、攻撃の選択肢として
確立されています。総アタックに対するバックアタックの打数は女子が約10%
なのに対し、男子は約20%です。しかも、決定率は女子が約28%と30%にも
満たないのに対し、男子では約50%が得点となります。
男子の場合、高い決定力のあるバックアタックを攻撃の中に組み込み
相手ブロックを分断しなければ優勝することは難しいです。
現に、サントリーはフロントアタックの効果率は全チームで一番高いですが、
バックアタック効果率はやや引けを取っています。サントリーは今年も
ムセルスキー選手という世界的なプレーヤーが在籍しています。ムセルスキー
選手に安定したトスを供給することと、昨年はアウトサイドヒッターの藤中選手が
サーブのターゲットとなることが多く、負担が大きかった部分を他の選手が
どれだけカバーし、中央からのバックアタック(パイプ)を効果的に仕掛けられる
かが注目点です。
監督交代の効果や選手補強による変化に注目!
次にセットあたりのブロック決定本数を比較してみます。ブロック決定本数はJTが飛び抜けた成績を残しています。ワールドカップでも活躍した
小野寺選手がセット平均0.77本と個人ランキングでも1位になっておりチームを牽引しています。東レはシーズン開幕後に、怪我によるミドル
ブロッカー陣の相次ぐ離脱もあり平均をやや上回った程度に留まっています。今季はベテランの富松選手を筆頭にワールドカップ出場メンバーでもある
髙橋選手や李選手といった若い選手の活躍にも期待が持てます。堺ブレイザーズはファイナル6に進出したチームの中ではブロック決定本数では
劣っていましたが、今シーズンはゴーダン監督が就任したことでより組織的なディフェンスが構築されブロック力だけではなく総合的にチーム力が
上がってくるのではないかと予想しています。
惜しくもファイナル6への進出を逃したジェイテクトSTINGSですが、ブロック決定本数では平均を上回っています。今季は新たに身長210cmの
中国のミドルブロッカー 饒(ラオ)選手を獲得し高さを大きく増強しており昨シーズンとは違ったジェイテクトが見られると思います。
西田選手のサーブは今年も必見!
最後にサーブ効果率です。
パナソニック、東レ、ジェイテクトが高い数値を残しています。個人ランキングを
みると、ジェイテクトの西田選手がサーブ効果率12.2で1位となっています。
先日のワールドカップでも、強豪国のビッグサーバーを抑えてサーブランキング
1位を獲得していますので今シーズンも必見です。
東レは鈴木選手がシーズンを通して安定かつ効果的なサーブを打っていたよう
です。外国籍選手のルジェ選手とアウン選手のサーブも効果が高く、昨シーズンの
東レにとっては大きな戦力となっていました。
男子の場合は特にレセプションがセッターに返球されコンビが組める状況下では
アタックが決まる確率が高いので、少しでも相手のレセプションを崩し、
攻撃の的を絞る必要があります。
大分三好ヴァイセアドラーやVC長野が上位チームと対等に渡り合うためには
もう少しリスクをとったサーブを打つ必要があるようです。大分三好はフィリピンの
バグナス選手を獲得しています。バグナス選手はフィリピンの大学リーグでMVP、
ベストスパイカー、ベストサーバーも取っている選手なのですごく期待が持てそうですね!
さて、今回は昨年のチーム技術統計からV1男子チームの特徴を捉えました。
昨シーズンどうだったかという予備知識を持ちながら10月26日に開幕するV1男子の試合を見てみると昨年からの変化、チームが強化している
ポイントなどに気付けるかもしれません。
先日行われたワールドカップでは男子日本代表は強豪国を相手に8勝を上げ最終的に4位という結果を収めました。
最終日のカナダ戦第5セットでの、西田選手の強烈なジャンプサーブは多くの人の記憶に焼きついたと思います。
西田選手への注目は高く、Vリーグでも観客を沸かせるパフォーマンスを発揮してくれるでしょう!
さらに今年は台湾でも非常に人気のある双子の選手がパナソニック(劉 鴻敏選手)とウルフドッグス名古屋
(劉 鴻杰選手。2019-20シーズンより「豊田合成トレフェルサ」よりチーム名を変更)に加入しています。
プレーにも定評のある選手だけに、日本で兄弟対決が観られるのも楽しみですね!
次回のデータコラムでは、再来週の11/7(木)に、ラリーポイント制の中で重要になってくる「サイドアウト」と「ブレイク」の考え方について解説します。
来週は試合ごとに選手の出場状況や個人成績が書かれた「公式帳票(A帳票・B帳票)」の見方をご紹介します。Vリーグ公式サイトの「日程・結果」ページの「REPORT-A」「REPORT-B」ボタンから確認できますので事前にぜひチェックしてみて下さい。
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【データコラム】チーム技術統計データで昨シーズンを振り返るーV1女子編ー
【コラム】知っておきたいルール解説(タイムアウト・選手交代・チャレンジ)
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<Vリーグ公認アナリスト>
宮脇 裕史(Hiroshi Miyawaki)
2007-2014 JTマーヴェラス コーチ兼アナリスト
2014-2016 バレーボール・女子日本代表 サポートアナリスト
2017- バレーボール女子アンダーエイジカテゴリー日本代表・アナリスト
(公益財団法人日本バレーボール協会)
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