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【データコラム】スロットとテンポ

こんにちは、Vリーグ公認アナリストの宮脇です!

前回のコラムでは攻撃の「組み立て」について解説しましたが、今回のコラムではさらにそれを細分化し、コート上の位置を示す「スロット」とセッターとアタッカーのタイミングを示す「テンポ」について解説していきます。

前回のコラムで紹介したパナソニック 対 東レのワンシーンでは、パナソニックは1回目にパイプ(コート中央からのバックアタック)攻撃、2回目はライトへのハイセット、3回目の攻撃では1回目の攻撃パターンと同様にレフトにトスを上げ、4回目にはミドルがBクイックに入り、クビアク選手がパイプ攻撃を仕掛けました。
東レはハイボール(高いトス)をアタッカーに持っていくのが精一杯でしたが、パナソニックは対照的に何度も攻撃を仕掛けています。パナソニックの攻撃は、今回説明するスロットを意識した攻撃となっており、ブロック側の東レは劣勢な状況が続くシーンでした。





スロットはコート上の住所


スロットとは、アタックライン内のコートを1m間隔で9分割し、英数字を用いてコート上の空間位置を示したものです。主にアタックをどのスロット位置で打つか、セッターとの共通認識を持つために用いられます。スロットはセッターを基準に0としてレフト側に向かって1〜5の番号を割り振ります。ライト側にはセッターを基準にA〜Cの英数字を割り振ります。




スロットを用いるメリットは、セッターとアタッカーがコート上の位置について共通認識を持つことです。今でも「レフト平行」や「ライト平行」などのコンビ名をつけることが一般的ですが、スロットを用いることでアタッカーがどこでボールを打ちたいか明確になります。

スロットを意識することで、効果的に攻撃の数的優位を作り出すことができます。「ハイキュー」を読んだことのある方であれば、「同時多発的位置差攻撃」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。相手のブロッカー3人に対して3人以上で攻撃を仕掛けることができれば相手のブロッカーはどこに跳べば良いか迷いが生じ、攻撃が有利になります。
 
ここで重要なのは、アタッカーがそれぞれ違うスロットで攻撃を仕掛けることです。例えば、速攻とバックアタックがスロット1で重なってしまっては、相手のブロッカーからすると移動しなくても対応することができてしまいます。スロット1で速攻を仕掛けたなら、バックアタックはスロットをずらしスロット2やスロットAで仕掛けます。さらに、いわゆるレフト平行のスロット5、ライト平行のスロットCの全4か所で同時に攻撃を仕掛けられると、ブロック側は守ることが難しく攻撃側が有利になります。

スロットをずらした攻撃(12/15 ジェイテクト 対 堺) 

スロットをずらした攻撃(12/14 東レ 対 PFU) 




セットアップを基準としたテンポの考え方


次に「テンポ」について解説していきます。テンポを、攻撃の速さやトスの高さと思われる方も多いと思います。
ただ、それだけでは説明することが難しいケースもあります。例えば、選手によっては同じ「レフト平行」でもセッターに要求する高さが違います。特に海外の選手は打点が高いためトスも高くなり、日本人にとってはオープン攻撃とも思えるようなトスもあります。そのため、テンポは一概にセットアップ(セッターにボールに触ったとき)からアタックヒットまでの時間ではなく、セットアップを基準としたアタッカーの助走動作に着目する必要があります。

テンポには「ファーストテンポ」、「セカンドテンポ」、「サードテンポ」の3種類があります。
ファーストテンポとは、アタッカーがセッターのセットアップよりも前に助走を開始しアタックするプレーです。セカンドテンポは、アタッカーがセッターのトスアップとほぼ同時に助走を開始するプレーを指します。ファーストテンポはセッターがアタッカーの状況に合わせてトスをあげなければいけませんが、セカンドテンポはセッターから放たれたトスの軌道に合わせてアタッカーが微調整をしなければいけません。最後にサードテンポとは、いわゆるオープン攻撃と言われるプレーで、セッターや他の選手から上げられたトスを確認してから助走に入りアタックを行います。

必ずしもトスの高さやトスのスピードだけがテンポを判断する基準ではありません。アタッカーがセッターのセットアップを基準にどのタイミングでアタックを打つ前の予備動作である助走を開始しているかが重要になります。


サードテンポのラリー(12/15 ジェイテクト 対 堺) 

 

 

 
 

マイナステンポはファーストテンポの一種


ハイキューの読者はマイナステンポという言葉も聞いたことがあると思います。先ほどのセッターのセットアップを基準とした考え方の場合、マイナステンポとはセットアップ時点でアタッカーの助走〜踏み切りが完了している状態です。

ファーストテンポがセッターのセットアップよりも前に助走を開始しているのに対し、マイナステンポはそれよりも早い段階で助走を開始し、セッターがセットアップする時には踏み切っているプレーです。相手のブロッカーはセッターのトスを見てからジャンプして手を出してくるため、相手のブロッカーが手を出してくよりも早くアタックを繰り出すことができます。
セッターのセットアップを基準として、それよりも早く助走〜踏切まで完了しているためマイナステンポと呼ばれます。

マイナステンポ(東レ・大野選手)





最後にツウなVリーグの観戦についてお話します。
今回のテーマであるスロットを意識した攻撃を楽しむには、コートエンドから見ることをオススメします。なぜならコートエンドからだとアタッカーがどういう位置で攻撃に参加しているかが見やすいからです。例えば後衛選手のバックアタックが前衛にいるミドルの速攻とスロット位置が被っていないかなどは、選手の後ろからの方が見やすいです。
ぜひVリーグを観戦する際は後ろからもバレーボールを楽しんでみてください!

 

来週は攻撃パターン解説の最後として、レシーバーの返球を起点とするトランジションアタックでの選手の動きに着目したいと思います。V1男子とV2は今週末が年内最後の試合です。チームを応援しながら、トランジションアタックのポイントは何なのか考えてみて下さい!





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<Vリーグ公認アナリスト>

宮脇 裕史(Hiroshi Miyawaki)

2007-2014 JTマーヴェラス コーチ兼アナリスト

2014-2016 バレーボール・女子日本代表 サポートアナリスト

2017-    バレーボール女子アンダーエイジカテゴリー日本代表・アナリスト

      (公益財団法人日本バレーボール協会)

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