コラム

【データコラム】トランジションアタック

こんにちは、Vリーグ公認アナリストの宮脇です!

2019年最後となる今回のコラムでは、レシーバーの返球を起点とするトランジションアタックでの選手の動きに着目したバレーボールの見方について解説していきます。今月書いた「ブレイク戦略」「攻撃の組み立て」「スロットとテンポ」のコラムと合わせて読んでいただけると、さらに理解度が深まると思います。
トランジションアタックとは、ラリー中の攻撃のことを指します。「移行」「変化」という意味のとおり、バレーボールのラリーの中で攻守の切り替わる場面のことをいいます。


今回のキーワードは「型」です!




 ディグで攻撃の起点を作る


ディグとは、アタックレシーブのことを言います。相手の攻撃を受け止め、コートに落ちないようにすることもディグの目的の一つですが、同時に攻撃につなげるという目的があります。ディグで上げたボールの落下点にセッターが入り、トスを上げて攻撃を仕掛ける始点になるため、ディグが攻撃の起点となります。

ディグの目的が、ただ相手がアタックしたボールを上げるだけになってしまうと、ディグしたボールがコート外に行ったり、セッターが余裕をもってセットアップできないようなボールになってしまうので、攻撃につなげるためのディグが求められます。

ディグで攻撃の起点を作るためには、スムーズに攻撃が展開できるような場所に返球すること、セッターとアタッカーが余裕をもって攻撃準備できる時間を作ることが重要になります。ディグは相手の強いアタックを受けるケースが多く、ボールコントロールが難しい技術です。正確にセッターの定位置に返そうとすると、ネットを超えて相手コートに返ったり、セッターがセットアップに間に合わなかったりといった、デメリットが生まれます。無理に正確に返そうとせず、コート中央に十分な高さのあるディグができれば合格点です。








 良いトランジションには素早いリロード


ブレイク戦略の回でも解説しましたが、トランジションアタックは、サーブを受けて切り返すレセプションアタックと違って、相手の攻撃を防いだあと、すぐに攻撃に転じなければいけません。ポジションやローテーションによってはブロックをした後かもしれないし、ディグした後かもしれませんが、そこからスパイクを打つための助走スペースを確保しなければいけません。

このことを前回のブレイク戦略のコラムでは「リロード」と呼びました。

リロードとは、銃の弾を込め直すという意味で、強いアタックを打つために必要な助走を確保するための行為に例えています。

アタッカーは様々なシチュエーションの中でその時の状況に合わせて最適なプレーを一瞬で判断しなければいけません。




ラリー中では、特にブロックを跳び終わった選手が忙しくなります。
ブロックを跳び終わり、通過したボールがどこに返球されたかを確認しながらネットから離れて助走距離を確保し攻撃を仕掛けます。この時、前回の「スロットとテンポ」でも解説したように、後衛の選手は前衛ミドルの速攻とスロット位置が被らないようにバックアタックに入ります。同時に4カ所で攻撃を仕掛け数的優位を作ることを、ハイキューでは「同時多発的位置差攻撃」と呼んでいますね。

トランジションアタックでは、攻撃パターンを状況に合わせて判断する必要がありますが、各アタッカーが自由に打ちたいトスをセッターに要求していると、ミスが生まれる原因になります。ある程度、攻撃の型(パターン)を決めていた方が選手同士の連動がスムーズになります。

トランジションアタックはレセプションアタックとは異なり、セッターとアタッカーとの間で攻撃のサインを予め決めておくことが難しいです。そのため、状況に応じてアタッカーが主導権を握り、どこにトスを上げて欲しいかセッターに要求します。

主にミドルブロッカーに対しては、どこの攻撃が有効かを事前に伝えておくケースもあります。

ラリーの中で攻撃までつなぐことができず、パスで返さざるを得ないケースも出てきます。
このような場合、相手コートの中央に簡単なボールを返球してしまうと、相手にいい状態で攻撃をされてしまうことになります。そのため、1本目を相手のセッターに取らせるように返球したり、速攻に入るのを邪魔するためにミドルブロッカーを狙ったりします。あるいは前に返すと見せかけてコート奥に意表をついた返球をするなど、3本目をアタックで返せなかったときでも相手の「型」を崩すようなプレーをします。



アタックが打てない場合の攻撃(トヨタ車体・ネリマン選手、12/21 対 PFU戦) 




 誰もがセッターの役目を


セッター以外の選手が1本目を触った場合、セッターが2本目のセットアップを行うことができますが、セッターが1本目を触った場合は他の選手がトスを上げなければいけません。最近の男子の傾向では、セッターが1本目を触った時には、コート中央に高く返球し、バックミドルに入ったアウトサイドヒッターの選手が2本目でバックアタックを打ったり、バックアタックを打つフリをしてトスにするというケースが多く見られるようになりました。



1球目をセッターが触った場合の攻撃(パナソニック・クビアク選手&久原選手 2019/4/7 対 JT戦) 



セッターが1本目を触った後は、リベロがセッターの役割を担うケースも多くみられます。そういった場合でも、相手ブロッカーにトスがどこに上がるか、できるだけわからないようにすることが望ましく、アタッカーもリベロがトスをあげる場合であっても複数箇所で攻撃を仕掛ける状況を作ります。リベロがトスする場合であっても速攻が使えるとさらに相手としては対応しづらくなります。セッターが1本目を取った後の型(パターン)にはチームの特色が現れやすいのでVリーグ観戦時の注目ポイントの一つです。

 

 

12月は主に攻撃パターンを取り上げてきましたが、次回の新年1/3(金)は、ディフェンスシステムの初回として「トータルディフェンス」について解説していきます。
システムを詳しく見るのであれば、エンドからの観戦がオススメです。見逃した試合がある方は、年末年始にDAZNやV.TVでぜひまとめてチェックしておいてください!




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<Vリーグ公認アナリスト>

宮脇 裕史(Hiroshi Miyawaki)

2007-2014 JTマーヴェラス コーチ兼アナリスト

2014-2016 バレーボール・女子日本代表 サポートアナリスト

2017-    バレーボール女子アンダーエイジカテゴリー日本代表・アナリスト

      (公益財団法人日本バレーボール協会)

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